■Motor Fan illustrated vol.94 ~ミッドシップの戦闘力~
MFiも同じ特集のループになってきて「ミッドシップのテクノロジー」というサブタイトルを使えなくなったのだろうが、
最近のMFiのサブタイトル(というかメイン特集のタイトルか)のキャッチコピーに全くセンスを感じない。
●ランボルギーニ
また、
2009年のミッドシップ特集 「Motor Fan illustrated vol.32~ミッドシップ MIDSHIP LAYOUT~」

も表紙がランボルギーニで、今回もランボルギーニなので、表紙だけを見ると、
MFi編集部にとっては「ミッドシップ=ランボルギーニ」なのかな?
↓
スーパーカー世代?頭悪い?編集長が乗ってるとか?
など、邪推してしまう。
特集の先頭が、ミッドシップのネガの解決方法としてのAWDについて、ランエボのAWDシステムの開発担当者だった澤瀬薫氏にアヴェンタドールに試乗してもらってのインタビュー記事なので・・・
・・・というのが理由なのだろうが、ミッドシップ×AWDなら、レースでやたら活躍しているAudi R8だとか他にも選択肢はあるワケで・・・。
比較的新しくリリースされた車種・・・というとアヴェンタドールになるのかな??
後述する「ミッドシップならではのスタイリング=ウェッジシェイプ」の代表がランボルギーニのデザインだから、ということもあるのかもしれないが・・・・。
今回の特集号ではAWDについてのウエイトが大きいワケではなく、ミッドシップのコーナリング性能・特性についてのウエイトが多かったので、本誌でも評価の高かったエリーゼ/エキシージや「新しい」として評価されているマクラーレンMP4/12Cあたりを表紙にしても良かったのではなかろうか?
あるいはもっと新しい「マクラーレンP1」とか。
↑AWDの話よりも、空力的造形が気になった。
先日の「MFi ル・マン」でもサイドステップについて書いたが、アヴェンタドールのフロントタイヤの後ろの処理は、フロントタイヤハウスからの空気排出を妨げず、更に排出した空気を再利用しようとしているような造形やね。
リアタイアハウスの前のくさび形の穴はなんだろう?
どこかから入った空気を排出して、リアタイヤハウスの側面に速い気流を作ることで、リアタイヤハウス内の空気を引っ張りだす思想なのかなあ?
●現代 Midship-Car POSITIONING MAP
現在生産されている主要なMR車の
・パワーウエイトレシオ
・車重
・サイズ
・ホイールベース
をグラフィカルに表現したステキな見開きページ。
ただし・・・・
上記画像でもパワーウエイトレシオの単位が[ps/kg]となっているし、文中でも[ps/kg]となっている。
PWRの正しい単位は[kg/ps]なのだが・・・・。
[ps/kg]だったら、数字の小さいマクラーレンP1は「重い車両にプアなエンジンを載せている」ことになる。
技術ウンチク誌としてはイタイ間違いだが、
「パワーウエイトレシオ」という名称から[ps/kg]としたくなる気持ちはわかる。(私も昔良く混乱した)
海外では power to weight ratio [ps/kg](=大きいほど立派)という評価があり、こちらの方がわかりやすいと思う。
●なぜミッドシップなのか
前後重量配分に対しての車両重心位置の重要性だけでなく、運転手のヒップポイントと車両重心位置が一致することがステアリング操作とクルマの進む向きの変化に密接に関係しており、後者においてMRが特に有利・・・という記事。
AZ-1とカプチーノとビートで比較をしており、
「ここでは」MRのAZ-1とビートが、車両重心位置=ドライバーのヒップポイントで、FRのカプチーノより持ち上げられている。
●ミッドシップならではのカタチ、ミッドシップに見せるカタチ
後述する他の記事でも、
"MRの優位性は運動性能よりもデザインの自由度"的な話が出てくるのだが、この記事もそういう内容。
↑フェラーリ458(=MR)が、F12ベルリネッタ(=FR)よりも、フロントを低く、Aピラーを前に・・・という比較写真。
この記事が面白いのは、フェラーリ同士の比較だけでなく、フェラーリとランボルギーニの比較をしており、
・
"フェラーリはブランド全体として統一感のあrスタイリングとなるよう細心の注意を払ってデザイン" →
"458ではロングノーズ・ショートデッキという古典的FRスポーツの美学に少しでも近づけようと、Aピラーとフェンダーがそれぞれ別の要素として明確に分けられている。ボンネットの後方にキャビンがあることを強く意識させつつ、フェンダーのうねりで・・・"
・
"ランボルギーニはMRらしさこそブランドの個性と捉え" →
"ウラカンはカウンタック時代から続くスーパーカーの美学を踏襲。モノフォルムのシルエットを持ち、ノーズ先端からドライバーの頭上まで、ボンネットとウインドシールドが連続しているように見えるウエッジシェイプだ"
と書かれている。
なるほど、面白いな。
MRのデザインの自由度が高いのは理解できるが、FRの古典的なロングノーズのスタイリングもカッコイイし、自由度をどう用いるのか・・・はメーカポリシーというワケか。
ちなみに私のビート(MR)はこんな感じ↓。
私はフロントオーバーハングのとにかく短いクルマが好きで、ビートのデザインは昔から大好きなのだが、ランボルギーニと較べるとウエッジシェイプからはかけ離れているな。
フェンダーの代わりにボンネットがフロントタイヤの上にきているあたりはいかにもMRなのだが、以外とボンネット高いよね。
・・・本件については、本誌の別記事でも取り上げられているので後述。
横置きMRの理由として
a) マスの中心化を図りつつホイールベースを可能な限り短縮し、旋回性能を高めるための採用。過激なコーナリング性能。(ストラトス、エリーゼ、ビート、AZ-1)
b) FF用コンポーネントの流用。ファッションとしてのMR。(X1/9、フィエロ、MR2、MGF)
とされている。
ビートは光栄なことにaに分類されているが、ホンダが足回り等を意図してアンダーステアに味付けしているため、ビートは決して過激なコーナリングマシンなんかじゃないのだが・・・・。
●ミッドシップ・レイアウトの利害得失
福野礼一郎氏が、自動車メーカの開発担当、シャシ設計担当、エンジン設計担当の方々とMR談義をする企画。
自動車メーカの中の人が匿名なので、技術寄りの書籍としてはイマイチだとも思うが、匿名な分、本音トークできている・・・とも考えられるのか。
実際、
本誌で個人的に一番面白いのはこの記事だった。
ここでも、エンジニアの方々はぶっちゃけたところ、MRの優位性は、運動性能がどうだ・・・とかよりも「スタイリングの自由度」だと言っている。
ボンネットを低く作れる
↓
ボンネットが低いのでアイポイントを低くできる
(視界確保については欧州には規格があるらしい)
↓
座面が下がる
↓
ルーフを低く作れる
↓
カッコイイ
という理屈だそうだ。
その理屈に当てはまっているからか否かは知らないが、確かに私のビートでは、シートに座った状態で、ドアを開くと
「前屈みしなくても地面が触れる」。
エンジニア諸氏はMRのメリットがスタイリングだと言っているが、本誌ではなんとかして「操縦性」に話をもっていこうとして、エンジニア諸氏が応えている。
で、いろいろと「定量化」した面白いデータが掲載されていた。
↑Y軸に「ヨー慣性モーメント」、X軸に「乗員を含む車両重量」や「ホイールベース」をアサインした、分布図。
「ヨー慣性モーメント」は、要はクルマを真上から見て、コマのように回したときの回り安さ(イナーシャ)。
本誌では「ヨー慣性」を「操縦性」の定量化の材料としているが・・・・
個人的には、どちらかというと「スピンのしやすさ」「スピンから復帰のしやすさ」でもあるよなあ・・・・と思う。
「ヨー慣性モーメント」が低いと、車両重心を中心に、クルクルとスピンしやすい(かつ、スピンモードから復帰しやすいか。
「ヨー慣性モーメント」が大きいと、スピンしにくいが、一旦スピンするとスピンし続ける。
・・・という具合に。
確かにノーズの向きの換え易さと同義ではあるのだが・・・・。
ただ、まあ、この手の「意味があるんだかナイんだかワカラナイ定量化」は好きな方なので、この記事は面白い。
「ヨー慣性モーメント」は、イナーシャなので当たり前だが、
"クルマに搭載されている無数の構成部品がそれぞれ重心からどのくらい離れた場所にあるかで決まってくるので、計算ではなかなか求めるのが難しい。ですから(自動車メーカーでは)実際に台上でヨー慣性モーメントを計測しています"
とのこと。
計算は「難しい」というより「メンドクサイ」んだろうなあ・・・・。特に他社の車両を評価する場合は。
台上での試験は、ターンテーブルの角加速度とトルクから求めるのだろうが、面白いことやってるなあ・・・・。
これも当たり前なのだが、グラフを見ていると、「ヨー慣性モーメント」は「車両総重量」にほぼ比例し、「ホイールベース」にもほぼ比例している。
で、「正規化ヨー慣性モーメント」という面白い概念、データも公開されている。
「ヨー慣性モーメント」の実測値を元に、車両の構成重量物が、いかにセンターマス寄りなのかどうか・・・という評価式。
フロントミッドシップ+フロントアクスルのBMW M3 CSLがもっとも良い値を示し、カレラGT、マツダ・ロードスター(いつの?)・・・と続く。
面白いのだが、自分のクルマの「ヨー慣性モーメント」を計測する術がないので、たぶんすぐに忘れてしまうんだろうなあ・・・。
さんざん定量化しておきながら、記事の最終ページでは
・「ヨー慣性が低いから操縦性がいい」は一種の都市伝説
・「トレッドとホイールベースの数値に黄金比が存在する」は都市伝説
などと、
ここまでのデータ、評価をあまり意味のナイものとして、白紙に戻している。
世の中「無意味」な検討も存在するから面白い。
●ミッドシップはどこにいくのか?
MFi編集部による座談会。
MP4/12Cやテスラの新しさへの評価、ロータス(エリーゼ/エキシージ)への賞賛、新型NSXへの期待・・・・・に続けて、
ビート乗りには結構、辛口で辛辣な記事となっている。
鈴木:
"あとはS660だろうね。ミッドシップになるのは決まりかな?"
三浦:
"でもね、軽の規格で作ろうとすると、たぶんすごくリアヘビーになる。そうするとヒリヒリ感、軽快感のあるクルマにはならないような気がします。"
萬澤:
"僕もね、軽自動車でやる意味があるのかなぁと疑問に思うんです。1.2Lぐらいでやればもっと面白いものになるだろうに。660ccで、制約のあるディメンションでやるのは惜しい。"
三浦:
"まったくその通り。"
萬澤:
"ミッドシップって、平べったいのが魅力じゃありませんか。でも、モーターショーで見たコンセプトは寸詰まりで、ミッドシップに意味が感じられませんでした。もともと昔のビートにも共感できなかったんですが、今度のS660も、なんか昔のビート人気にあやかって、みたいな気がしました。"
小泉:
"僕も「乗ってみたら楽しそう!」みたいな期待はありません。 (※中略) まぁでも、たぶん買うのはほとんどがおじいちゃんだと思いますけれど。"
萬澤:
"ホント、そうなんですよ。"
鈴木:
"・・・みんな厳しいね。"
三浦:
"NSXには何か「世に問いかける」という志を感じるんですけれど、ビートにはお手軽感しか伝わってこない。コペンの方がまだピュアな気がする。"
萬澤:
"だったらコペンの方がいい。ホンダにはもっと本気で作ってもらって、ロータスみたいになってほしいんですよ。"
・・・・。
これまで、Motor Fan illustratedには膨大なお金を払ってきたし、本ブログでもかなり取り上げてきたケド、火をつけて、今後はネガキャンすべきかな?・・・という批評っぷりだな 笑。
実のところ、私もS660にはあまり興味がナイのだが(なんか重そうだし、顔カッコ悪いし・・・)、なんかこの座談会を読んでいたら、S660を応援したくなってきた。
ホンダさん、こんなこと言われてますよ?
まあ、しかし、
実際のところ、旧ビートはリアヘビーだし、ヒリヒリ感、軽快感のあるクルマではナイので、もっともなことを言ってるな、とも思う。
「オレのビートに乗ってみろよ」とも思うが、このヒトたちは、メーカからリリースされるノーマル車両について語ってるワケだし。
なので、次号(これまた「オープントップのテクノロジー」なんだわ)も結局、買ってしまうのだろう。
ただし・・・・・・編集者の名前は覚えておこう。
●自動車 書籍レビュー関連目次はこちら