先日試乗したBRZで一番好印象だったのは重心の低さと前後重心バランスによるコーナリングの気持ちよさだが、「元音響屋」として、BRZ(と86)の売りのひとつである
Mahle Filter Systems製の「サウンドクリエータ」について考察してみる。
正直、「サウンドクリエータ」って名前はどうしようもなくイケてないと思う。職種にしか聴こえない。
・・・が、本国のマーレで昔から使われているネーミングだとしたらどうしようもないんだろう(グローバルな感覚でもイケてるネーミングだとは思えないが・・・)。
■スバル BRZのFA20エンジンの吸気の流れ
●前方吸気
EJ20やFB20は後方吸気(エアクリBOXから吸気管をバルクヘッド方向に取り回し、インテークマニホールドの奥からの吸気)だが、FAは前方吸気。
配管距離が短く、太く、直線的。
圧損が少ないのは美点だが、低速トルクを犠牲にしてでも高回転域を重視した・・・ということだろうか?(個人的には大いにアリ)
MFiによると、前方吸気レイアウトはフロントミッドシップ寄りのエンジン配置にも貢献しているとのこと。これも美点やな。
スロットルチャンバーが見当たらないのは、スロットル閉→開時のレスポンスが、この短い配管距離だと問題にならないということだろうか?
●レゾネータ
エアクリにはレゾネータが接続されている。(※このあたりはEJ20なんかと同じ。ただし、EJ20ではレゾネータはエアクリBOXの下に位置するのでFA20のように目視できない)
マーレのサウンドクリエータを使ってまで吸気音を強調しようとしているが、逆に消音を目的としたレゾネータ(=ヘルムホルツ共鳴器により特定周波数域の音のエネルギーを減らす)を取り付けているということは、サウンドのキャラクター作りとして強調したい周波数帯と、消したい周波数帯があるということか。
あるいは、脈動効果・共鳴過給を考えてのものだろうか?
どなたかBRZ購入されたらレゾネータの共鳴周波数を調べてください↓。
参考: レガシィB4時代にEJ20Yのレゾネータを外して共鳴周波数を調べてみたときのブログエントリ
※レゾネータによる脈動効果・共鳴過給についてのメーカからの技術的コメントがある場合も結構多いが、有識者から「消音目的のみで、脈動効果はタテマエ」という見解も聞いたことがある。
※ただし、私のかつて乗っていたB4ではレゾネータ撤去で、共鳴周波数に該当する回転数でノッキングが増えたように思えた。
参考ブログエントリ「【ECU】考察:レゾネータとノッキングの関係 」
実際の因果関係は定かではないが・・・。
●Mahle Filter Systems サウンド・クリエータ
エアクリ通過後、マーレ・フィルターシステムズの「サウンドクリエータ」へと分岐。
吸気音強調のため・・・というのはスポーツカーとして域な機能だと思うが、インマニへの吸気系路からこれだけ長い分岐があることのネガは何かないのだろうか?
もちろん、分岐位置(メインの吸気管における「腹」や「節」)は考えているんだろうから、吸気管長と分岐位置を測ってみると面白いかも。
サウンドクリエータから奥に吸気が通過するワケではない。
サウンドクリエータ内には「ダンパー」(ベローズ状のダイアフラム)が間仕切りとして存在し、これが共鳴し、吸気音を拡声して車室内に送り届ける仕組み。
※無断転載申し訳ございません
参考:特許「内燃機関の吸気装置」
↓マーレ・フィルター・システムズのサウンドクリエータ。
予備知識がなければ、パッと見、ブローオフバルブにも見えるな。FA20は今のところNAなので誤解する人もいないと思うが。
ピックアップやマイクロフォンで拾ってるワケではなく、機械的であることが評価されているが、やはり細い配管を通った吸気音を、「共鳴」(=特定の周波数域が強調)させているため、個人的にはやや人工的な音に聞こえた。(不快ではないが)
B4、ビートとバルクヘッドの吸音材を全て撤去したクルマに乗っている私だが、それらの条件で聞こえるサウンドとはやっぱり異なるのだ。
電気的にフィルタリングされた音ではなく、機械的にフィルタリングされた音も、やっぱり「フィルタリングされた音」として認識できるんだなあ・・・と。人間ってスゴいな。
車室内へエンジン音の供給箇所がバルクヘッド全体ではなく、サウンドクリエータの出力側ダクトが接続されたポートのみ(・・・と思う)なのも、不自然な理由か。
音楽でのサウンドメーキング(グライコ、パライコ操作)で連想すると、300~600Hzあたりを抽出したバンドパスフィルタのような感じだろうか?
ローとハイはカットされている感じ。
個人的には1~2kHzあたりをもう少し聞こえるようにして欲しいが、メカニカルノイズが強すぎると、否定的な人が多くなりそうだ。
(3.5kHzあたりが一番耳につくので、そのあたりはあまり強調すべきではないと思うが・・・)
最近発刊された
MFi特別編集「スバルのテクノロジー」(スバヲタな皆さんは必読)にもこの「サウンドクリエータ」について少し詳しく載ってた。
MFiによると、どうも300~400Hzあたりを強調して「拡がり感」を与えている模様(私の感覚と少し異なる。悔しい)。
で、
「4次、6次の成分を持ち上げてやるとマルチシリンダー的なニュアンス」となるそうな。
「4次、6次の成分を持ち上げる」って言っても、サウンドクリエータが共鳴によって音作りをする機構である以上、特定の回転数帯の4次・6次にしか効いてこない。
上述の「300~400Hz」の間をとって350Hzをサウンドクリエータの共鳴周波数を仮定すると、
350[Hz] ÷ 4[次] × 60[Hz→rpm換算] = 5250[rpm]
350[Hz] ÷ 6[次] × 60[Hz→rpm換算] = 3500[rpm]
となり、3500[rpm]では回転6次が強調され、5250[rpm]では回転4次が強調される・・・ということになる。
レゾネータの共鳴周波数を150[Hz]あたりにしてやると4500[rpm]周辺で回転2次成分を減らすでき、回転2次を減らし、4次・6次成分を強調することで、多気筒っぽくする・・・という思想なのかも。
ただ、MFiには「300~400Hz」「4次・6次」と書かれているものの、私のBRZ試乗における音の印象は、多気筒エンジンの音ではなく、紛れも無く直4の音。(あくまで個人的な印象だが)
あちこちに転がってるコンパクトカーの安っぽい雑味の直4の音じゃなく、ホンダやかつてのBMWの直4の方向性にある「パンチの効いた直4の音」(もうひとつパンチ不足なので「適度にパンチの効いた直4の音」か)。
・・・で、
先日のBRZ評に書いたように、それはスポーツエンジンとしての「雰囲気」を生み出すと同時に、せっかくの水平対向の美点・テイストを損なう結果となっていないか?・・・という疑問。
これだけ一つのテーマについて掘り下げて考察・感想を書くことができるのは、私にとっては試乗できたからに他ならない。個人的にはやっぱり「体感・感覚として理解する」ということが非常に重要。私にとっては試乗はとても重要なのだ。
レクサスLFA×ヤマハの可変エグゾースト・システムにも興味があるケド、試乗できないので書くことができない(笑)
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技術論 | クルマ
Posted at
2012/04/03 21:31:40