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トムラウシの事故報告書がある。
まだ3年しかたっていない事に少々驚きを感じている。
■そこには集団心理から、判断を誤った事が浮き彫りになる。
前エントリーなどで、「参加するのが間違いではないか」
と厳し過ぎる事を書いた。
しかし、予備日もなしに山を縦走するなんて
死にに行く様な物で、植村直己だろうが野口健だろうが
そんな事をしては決してならないのだ…。
■まず問題は山の上で得られる情報は非常に少ない。
天気図を見るだけで、危険な状況か区別しなければいけない…。
その一つが、「オホーツクの閉塞低気圧はなかなか動かない」
という鉄則である。
大雪山系では、遭難死が出るのは、このパターンが大きい。
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■例えば今回、長城で事件を起こす遠因となった
オホーツク海の低気圧については、
11/2~4日まで低気圧は動かなかった。
12/212時
3日
4日
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■天気図上では動いている筈なのに
動かない。おかしいじゃないか?
からくりは簡単で、回転する中心が、ジャンプするのである。
(ジャンプ現象)、ある時は大きく
ある時はコマの様に渦の中心がずれる。
■そんな証拠がどこにあるの?
その証拠は、この通り…
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■海上を基点にして、北海道の周りではしばしば回転が生じやすい。
そして、その結果、オホーツクの沖で一定の安定的な渦を巻くのが閉塞低気圧の恐ろしさだ。
■こうなると、同心円状の原理で
去る筈の低気圧から同じ方向に風が吹くという
とんでもない事態が起きる。
洞爺丸の時と同じく、
「去るだろう」と言う後の数時間の持続は
しばしば致命的になりかねない、と言う事が分かる。
■では、実際のトムラウシ遭難時には何があったのか??
報告書をかいつまんで説明する。
この時は閉塞低気圧は宗谷より侵入し
約半日にわたって、オホーツクに停滞した。
大雪山(北海道のほぼ中心)は北西寄りの風が吹いた事が分かる。
厳密には吹き続けた。

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五色の観測ポイントではその影響で
著しく気温が低下した。
■一方、遭難したアミューズのほかにもう一つのパーティーがいた。

彼らは寄せ集めではなかったから結束が強かったし、
もうちょっと出発を遅らせた。
ほぼ同行程だったが、移動速度的には伊豆組の方が早く
アミューズは遅かった事が分かっている。
(アミューズ組は追い抜かれる)
■アミューズは、年配者が多く、行程も遅いと言う事で
亡くなったガイド自体が危機感を抱いていた…。
その為、
繰り下げる時間を短くして、5時半に出発した。
そこにあったのは
焦りである…。
閉塞低気圧は、いったん風が収まっても、再び吹き出すと止まらない…。
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実は疑似眼の通過は、7/1515時から18時の間だ。
この
時間ガイドたちは、翌日の雪渓のチェックを行っている。
次の日の天候は曇りのち晴れ、「回復するだろう」
であれば
、早めに出発して、一気に10数キロ、
トムラウシを降りなくてはならない。
飛行機を考えれば予備日は難しいのだ
トムラウシと洞爺丸が似ていると言うのはここにある。
予定に急かされて、不安を感じつつも
「早めに出発する」
これが集団心理の恐ろしい所で
閉塞低気圧の回転においては致命傷となる。

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■体力のない集団を、あすは無事降ろさなくてはいけない。
そして瓢沼には…
次の日
沼の原経由で「次のパーティーが上がってくる」
つまり、「滞在」と言う選択が既にありえない。
■そして部隊は足が遅い。
ギリギリまで出発を遅らせる事が出来ず、
嵐の中、時間に追われてスタートする。
■
かくして、混成部隊の「無理ゲー」がスタートします。
単独行であれば、「留まるであろう」現状でも
「企画するのが阿呆」なツアーであれば、
「参加するのも阿呆」になってしまう。
■アミューズと言う、ベルトコンベア式のガイド登山は
こう言った「ロシアンルーレット的危険性」を抱えていました。
ツアーに予備日はないのです…。
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■そして
洞爺丸の函館港バリに、瓢沼避難小屋には
次の客の予定が入っています。
(まあ避難小屋をツアーが占拠するのがどうかと言われれば
外に出て凍えてください、と言いたくなるレベルのわがままな愚行です。)
戻る事は出来ませんし、
戻っても、次の日もう一度10数キロをアタックしなければいけません。
追加料金付きでね。
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■彼らには…戻る場所は元からなくて
選択肢も元からなかったんです。
せいぜい、昼の内に着けない時間に出発する
(当然遭難危険性発生)
という事位しか選択の余地がありませんでした。
■そしてガイドA(低体温症で死亡)をビバークで失った集団は
ガイドCも低体温症を起こし、急速に崩壊して行きます。
皮肉にもばらばらになった事で、助かる人は助かり
死ぬ人は死ぬ事となります。
これが「集団心理」の罠とトムラウシでの一つの
後付証拠から見た事実と言えるでしょう。
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■但し、トムラウシにおける嵐は、洞爺丸における台風の発達に比べれば
「しょっちゅうある事」です、
その意味で、これだけの報告書が出ておきながら
アミューズが生き延びていた事にはっきり言って
ちょっと唖然としないではないですし、
予備日を作らない、
ギリギリで計画を立てる。
と言う面で
全く学習していなかったのはちょっと驚異です。
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■しかし、
考えてみて欲しい。
これ同じ山なんですよ(汗)
2011年10月2日 秋田駒ケ岳
2011年10月03日
異常時には個人でない時が危ないということ
2012年10月14日 秋田駒ケ岳
2012年10月15日
雲上の楽園 その1
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■アミューズと言う一企業にも責任がありますが、
これは
登山ブームのはらむ危険性を認識すべき問題が
未だに解決されていないと言う意味でもあります。
訳の分からん責任感に縛られた瞬間、
人は冷静な判断を失います。
それは経験を踏み越えて、
人を危ない賭けに誘います
そこにあるのは、分の悪い、勝ち目の薄いギャンブルです。
■しばしば
「その立場に追い込まれた人」が悪とされます、
その一人が洞爺丸船長と言えるでしょう。
「システムの矛盾が、個人にしわ寄せされてしまう訳」です。
アミューズはもちろん「くず」ですが、
ガイドはその範囲内では、…過失はありますが
「最善」は尽くしています。
■
「閉塞低気圧」における
「疑似眼」について
また、閉塞低気圧その物について
これらは台風よりしばしば恐ろしい物です。
後から見れば、そうなのですが、
動いている中心が
中心ごとずれて、
同じ場所に戻ってしまいます
書くのは簡単ですが、そのまま移動するのか
或いは留まるのかは、正直分からないんです…。
ただ、立ち止まる勇気を是非持って欲しい。
仮に賭けに負けても、安全を見て撤退する事は
十分に賞賛されるべきもの。
ガイド、と予定、と集団心理は人を狂わせます。
■まあ、そんな私が、原発はいずれ下火だから
使える内は原発を続けるべき、と言っている訳で
そこにちょっとした矛盾がある訳ですが、
「山で死ぬ」確率に比べたら、比較にならないほど小さい訳で
それ位山はハイリスク、ローリターン。
でも登っちゃうわけですよ^^;