
WRC世界ラリー選手権を戦うTOYOTA GAZOO Racing WRTは11月27日、2020年シーズンに向けたドライバーラインアップを発表しました。
噂通り、シリーズ6連覇の経験を持つ “絶対王者” セバスチャン・オジェがトヨタのエースドライバーとなりました。
しかし、驚いたのは、オジェの移籍だけではなく、残る2人も新ドライバー(エルフィン・エバンス、カッレ・ロバンペラ)を起用と、ラインナップを刷新した事です。
今季チャンピオンを獲得したタナックがヒュンダイへ移籍する事は発表されていましたが、ヤリ-マティ・ラトバラ、クリス・ミークについては、移籍と言う話は出ていませんでしたから。
特に、ラトバラは、TOYOTAがWRCに復帰した時からのドライバーで、チームが本拠地としているフィンランド出身のドライバーでもあり、来季もTOYOTAで走るものだと思っていました。
今回のドライバー・ラインナップ変更を受けて、豊田章男チーム総代表が、今季限りでチームを離れることとなったオット・タナック、ヤリ-マティ・ラトバラ、クリス・ミークの3名に対してコメントを発表しました。
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ヤリ-マティ、3年間ありがとう。
僕が初めて、フィンランドに行った時、トヨタは、まだWRC復帰を決めていなかった。
はじめてのWRCに興奮していた僕は、選手を直接見たくてホテルのロビーで出待ちをしていた。
そこに現れたのがフォルクスワーゲンのヤリ-マティだった。
ドキドキしながら声をかけると、君は実に気さくにこたえてくれた。
話しながら、僕がトヨタの回し者だと気づいた君は、自分の乗っていたカローラやセリカの話を、とても嬉しそうにしてくれた。
こんなにトヨタのことを覚えていてくれている選手がいる内にWRCに戻らなきゃ…と、復帰への決意ができたのは、あの時だった。
トヨタファンの気さくなフォルクスワーゲンドライバーに出会えていなかったら、今、トヨタはWRCにいなかったかもしれない(笑)。
その2年後、君がうちのエースドライバーになってもらえると聞いた時は、不思議な縁に本当に感動したよ。

そして、今だから正直に言うと、最初のシーズンが始まる前、1年目から勝てるなんて思っていなかった。あの時は「1年かけて表彰台に上ろう」が我々の目標だった。
でも、初戦のモンテカルロで君はすぐにトヨタを表彰台に導いてくれた。その翌月には、表彰台の一番高い所にまで連れて行ってくれた。本当に夢のようだった。
昨年、やっとフィンランドで君と一緒に表彰台に上れたのはとても嬉しかった。あとから写真を見返したら、オィットに渡されたシャンパンを僕は真っ先に君の方に向けていた。そのくらい君と上れたことが嬉しかったってことだと思う。

カローラやセリカをあんなに大切に乗ってくれている君だから、これからもトヨタのサポーターでいてくれると信じてます。よろしく。
クリス、君にも、今だから正直に話さないといけないことがあります。
君を迎え入れる時、ヤリスが転がったり、道を間違えたり、駐車場を走ってしまうんじゃないかと、すごく心配だった(笑)。
でも、君は、トヨタのために、しっかり仕事をしてくれた。どんな時でも限界までアタックしてくれたし、元エンジニアだからこそのアドバイスでヤリスを強くしてくれた。1年間ありがとう。
そして、オィット…。
チャンピオンという夢を君が叶えられたこと、自分のことのように嬉しく思う。そして、その手伝いをさせてもらえたことをトヨタは誇りに思っている。
僕は友山(GAZOO Racing Company プレジデント)と違って表彰台に上るのが苦手だったんだけど、昨年のフィンランドで君が初めて僕に高い所への上り方を教えてくれた。君のおかげで、やっとあの景色を見ることができたし、シャンパンがいかにベトベトするものなのかも知ることができた。本当にありがとう。
「目標を達成した今、環境を変えて次の挑戦に臨みたい。」という君の決断は本当に素晴らしいと思う。来年からは君がトヨタのライバルになる。強いライバルがいることは、僕らにとっての大きなモチベーションになってくる。
表彰台の上り方も、シャンパンの開け方も、しっかり教えてもらったから、次に表彰台で会う時は、上から君にシャンパンをかけることができると思う。また表彰台で会おう!
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豊田社長の、ラトバラに対する特別な思いを感じさせるコメントですね。
また、ミークに対するコメントには、思わず吹き出してしまいました。豊田社長、面白すぎます。(笑)
ミークは、2017年のラリー・メキシコで、余裕のトップ快走中、あろうことか最終SSでコースアウト、観客用駐車場を迷走した末に何とかコースに復帰、辛うじてリードを守り切って優勝すると言う珍プレーを演じました。

(私も、CSでLIVEで見ていましたが、驚くよりも笑ってしまいました)
しかし、クラッシュの多いミークは2018年のラリー・ポルトガルで雑木林に転落しマシンは大破、シーズン途中でシトロエンはミークの出走予定を全て取り消すのです。
TOYOTAも、よくシトロエンが見放したドライバーを取ったもんだと、驚いたもんです。
豊田社長のユーモアは、2018年シーズン前にも、TOYOTAに加入したタナックに対して、シュノーケルのプレゼントをするなどして笑わせてくれました。
当時のタナックは、速いものの、エースドライバーと言う感じではなく、あくまでラトバラに次ぐ2ndドライバーに過ぎず、技量よりも 2015年のラリー・メキシコでコースアウトし、湖に沈んだ事件で有名でした。

(当時は、大西洋に沈んだタイタニック号になぞらえて“タイタナック”と呼ばれた)
そのタナックに対するコメントは…、正直、チャンピオンを獲らせてやったのに裏切るのかよ、なんて思いが私にはあるのですが、豊田社長のコメントには、その様な思いはどこにも、それこそ行間にも全く感じさせません。
そこにあるのは、来季のライバルとなるオィットに対する敬意です。人間が出来ていますね。
ただ一言「上から君にシャンパンをかけることができると思う」の“上から”に、TOYOTAとしての決意が感じられました。
今季はマニュファクチャラーズ・チャンピオンは逃しましたが、チームとしては1つに纏まっていた良いチームだったと思います。
大事なところでのトラブルが多かったけど、それさえなければ確実にマニュファクチャラーズ・チャンピオンも獲れていた筈。
新ラインナップで臨む来季は、是非3冠獲得を達成して欲しいですね。
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TOYOTA | 日記
Posted at
2019/11/28 06:09:06