
前回ブログで、フェラーリがルクレールの3セット目のタイヤにハードを選択した事に関して批判的な意見を書きました。
まぁ、完全なド素人が、小さなTVモニタ越しに中継を見ながら感じた事なので、現場で勝利を目指して戦っている当事者とは考えが違うのかもしれません。
それが証拠に、フェラーリF1のチーム代表を務めるマッティア・ビノットは、ハンガリーGPの敗因を以下の様に述べていました。
「問題は、タイヤ戦略というより車のパフォーマンス不足だ」
…
……
………
はあっ?
フェラーリ、終わってるな。
レース当日の気温を考えなければ、ハードタイヤという選択は一般的なものだったでしょう。(例年は“真夏のハンガロリンク”ですから)
ハンガロリンクを70周するハンガリーGPは、2ストップ(=タイヤ3セット使用)を選んでも ライフの短いソフトを含めると距離に不安があります。
実際、フェラーリだけではなく、ライバルのレッドブルやメルセデスも、レースではソフトを使う気が無かったようで、新品のソフトは残していませんでした。
しかし、レッドブルはレース前のレコノサンスラップ(スターティング・グリッドに付く為のラップ)で、全くタイヤがグリップしない様子に『ハードタイヤは全く機能しない』と考え、あえて中古のソフトタイヤでのスタートに切り替えたのです。
ポールポジションのラッセルも中古のソフトを選択。
ただ、フェラーリのミディアム選択は失敗でも何でもないと思いますよ。
ミディアムでスタートしても、最後にソフトを履けば問題ありませんからね。
レース序盤、予選で10位に沈んだフェルスタッペンは、早めにポジションを回復すべく、グリップに優れるソフトタイヤを生かしてアルピーヌ勢をオーバーテイク。
一方のフェラーリ勢は、フェルスタッペン同様に グリップに優れるソフトを履くラッセルを攻略出来ずにいました。
そこで、フェラーリは
ラッセルに前を塞がれている様なら、先にタイヤを交換して、自由な空間をラッセルより速いペースで走る 事を選択したのだと思います。
16周目にサインツにピットインを指示。
しかし、前を走るラッセルにもピットインの指示が出ていた為、一足早くラッセルがタイヤ交換の為にピットインしました。
フェラーリとしては願ったり叶ったりの展開でしょう。
ラッセルのタイヤは ただでさえライフが短いソフト、それも中古のソフトでしたから、ラッセルに付き合って まだまだライフが残っている新品ミディアムを捨てなくても良くなったのですから。
ところが、フェラーリは一度決めた事の軌道修正が出来ないのか、翌周(17周目)にはサインツのタイヤ交換をさせてしまいます。
ミディアムを交換する必要が無かった事は、同じフェラーリのルクレールが21周目まで引っ張り、サインツをオーバーカット出来た事で証明されています。
それどころか、先にラッセルがタイヤ交換を済ませている為、サインツのタイヤ交換は、わざわざラッセルの後ろを走る事を確定させただけでした。
さて、みすみすラッセルの前に出るチャンスを捨ててしまったサインツに対し、ルクレールは21周目までステイアウトする事でサインツをオーバーカット。
30周目には、ラッセルのメルセデスとのマシンの地力の違いを見せつけるようにオーバーテイクし、トップに立ちました。
最速マシンを持っているのだから、ヘタな事をしなければちゃんとトップに立てると証明する様な一連の流れでした。
しかし、フェラーリはフェラーリでした。
38周目、レッドブルがフェルスタッペンにピットインを指示。(下の写真の Lap39 は先頭のルクレールの周回数)
マックスは16周目に一回目のタイヤ交換を行っている為、まあ妥当な時期(22周)の交換? ちょっと早めの様な気もしますが、相手にプレッシャーを掛けるという意味もあったと思います。
但し、
レッドブルがプレッシャーを掛けようとしていた相手というのはメルセデスですけどね。
なのに、
フェラーリは反応してしまったんですよ!
ルクレールのタイヤは、マックスより5周も若いんだよ? もう替えちゃうの?
そして、用意されたタイヤは……
まさかのハード!
ルクレールは、マックスとの間に十分なギャップを築いていた筈なのに、みるみる差が縮まっていきます。
ルクレールが無線で叫びますが、
ピー音 で何を言ったかは分かりません。
ハードタイヤを履いたルクレールのフェラーリは、ホームストレートで、あまりにもあっさりとフェルスタッペンにオーバーテイクされていきました。
何故、フェラーリは動いてしまったんでしょう?
一回目のサインツも、2回目のルクレールも動く必要は無かった。
動く必要があるのは、そうでもしないと突破口が開けないチームがする事です。
最速マシンを擁していて、上位を走っている時は下手に動かずに横綱相撲を取ってればいいものを……
ビノットは「車のパフォーマンス不足」と言いましたが、少なくてもルクレールはミディアムタイヤを履いている時は速さを見せており、速さを失ったのはハードタイヤに替えてからです。
サインツにはハードタイヤを履かせずに、中古のソフトを履かせましたが、最初のスティントで新品ミディアムを、(ラッセルの)中古ソフトのライフに合わせる形で早々に捨ててしまっていたので、最後のスティントでは中古ソフトを23周持たせなくてはならなくなり、同じ戦略(新品ミディアム-新品ミディアム-中古ソフト)を取ったハミルトンの様に飛ばすことは出来なかったのです。
「車のパフォーマンス不足」ではなく、「車のパフォーマンスを生かす戦略を取っていなかった」だけでしょう。
以上が、完全なるド素人によるレース、特にストラテジの検証です。
まぁ、誰が見たって同じ検証結果になると思いますがね。(特にハードタイヤ選択は…)
レース後、モニターでルクレールのマシンが履くタイヤのレターがホワイトだったのを見たハミルトンは
「えっ、フェラーリはハードを履いていたの?」と驚いた様子でフェルスタッペンに質問。
マックスは、ただ「Yeah」とだけ答えたそうです。(ラッセル、笑ってるし……)
レース後のSky Sports F1のインタビューでは、ルクレールがフェラーリのハードタイヤ選択を
「大惨事」だと語っていました。
その様子を見ていたラッセルは いたたまれなくなったのか、ルクレールのインタビューに割って入り、ルクレールと握手し「運が悪かったね」と慰めていました。
いや、『運が悪かった』で済む問題じゃないだろ。
ハンガリーGPが終了し、F1は4週間のサマーブレイク期間に入りました。
はたして、夏休み明けにフェラーリF1チーム代表のビノットや、ストラテジストはパドックに戻って来れるでしょうか?