
最近 仕事が忙しくて、ブログの更新頻度が落ちているタケラッタです。
前ブログで、SUBARUの水平対向エンジンの話を書きましたが、本日のブログでは、SUBARUに捉われない 水平対向エンジンの話をしてみたいと思います。
今でこそ、水平対向エンジンはSUBARUとポルシェしか作っていない特殊なエンジンとなっていますが、かつてはそこそこ採用例のあるエンジンでした。
そもそも、戦前(第二次大戦前という意味)の車のエンジンは、その殆どが直列エンジンであり、高級車に搭載されるマルチシリンダーエンジンは、8気筒でも直列8気筒エンジンが採用されるような時代だったのです。
もちろん、直列8気筒ではエンジン長が長くなり過ぎるので、V8エンジンも存在しましたが、6気筒は殆どが直列6気筒でした。
しかしながら、V型エンジンが少なかった当時でも水平対向エンジンを採用する車は結構見受けられました。
真っ先に思い浮かぶのは、何と言ってもフォルクスワーゲン・ビートルですね。
フォルクスワーゲン・タイプ1(1941–2003)
ヒトラーは国民車構想(1933年)を実現すべく、フェルディナント・ポルシェに国民車の設計を命じ、生まれたのがタイプ1でした。(ちなみに『ビートル』というのは愛称であり、正式名称ではありません)
その当時のドイツ製大衆車、オペルP4(1935-1937)がコレ。
スタイリングも前時代的なら、性能的にもエンジンはOHVですらないサイドバルブ、さらには前後とも固定車軸という旧態依然の車でした。
まあ、それだけビートルの設計が先進的だったって事ですけど…
そのビートルに採用されたエンジン形式が水平対向エンジンでした。
何故、水平対向エンジンが採用されたかと言えば、
1. 振動が少ない
2. 小型・軽量である
3. 重心を低く出来る
等の理由が考えられます。
特に振動に関しては、構造上、向かい合ったピストンが振動を打ち消し合う為、当時の工作精度でも水平対向エンジンを採用する事で振動を抑えられたのです。
勿論、振動が少なければ、それだけ高回転まで回せますから性能的にも有利になります。
ヒトラーは、国民車構想と同時にアウトバーン建設も掲げており、国民車には
“連続巡航速度”100 km/h以上を求められていたのですが、前述のオペルP4は
“最高速度”が90 km/h以下でした。
ヒトラーの求める性能を満たすには、水平対向エンジンは必須の選択だったのです。(なお、理に適った設計の中には「空冷」、「リアエンジン」もあるのですが、今回は割愛します)
さて、ビートル設計時に選ばれた水平対向エンジンがどれだけ優れていたかという事は、ビートル後に登場した車を見れば分かります。
えっ? 今に続くポルシェ911の事だろって?
いや、そういう訳じゃありません。(911に関しては、ポルシェ家の“拘り”も入っているでしょうからね)
ビートル以降、水平対向エンジンを採用する車が増えていきました。
シトロエン 2CV(1949-1990)
シボレー・コルヴェア(初代:1959-1964)
ランチア・フラヴィア(1961-1971)
トヨタ・パブリカ(初代:1961-1969)
スバル1000(1966-1969)
アルファロメオ・アルファスッド(1971-1989)
いずれの車も大衆向けの小型車であり、コンパクトなボディに搭載する小型軽量なエンジン、多気筒化せずとも振動が少なく出来る、重心が低く走行安定性に優れる、という利点を得る為に水平対向エンジンを採用していました。
「シボレー・コルヴェアは、全然小さくないじゃん!」って思われるかもしれませんが、アメリカの車としては十分小型であり、設計思想的には “空冷”、“水平対向”、“リアエンジン” と、ビートルの影響をもろに受けた車でした。
むしろ、上記の車の中で異端なのは
“ランチア・フラヴィア”でしょう。
同時期のランチアには
“フルヴィア”という車もあったのですが、こちらも挟角V4という かなり特殊なエンジンを搭載していました。
約10度という 挟角V4エンジンを搭載していた
フルヴィアに、水平対向エンジンを搭載した
フラヴィア。
他の車たちが合理性から水平対向エンジンを採用したのに対し、ランチアに関しては『技術至上主義』で水平対向エンジンを採用した気がします。(つーか、何で同時期にそんな特殊な車を2種類も作ったんでしょうねー)
さて、そんな合理性から生まれた筈の水平対向エンジン搭載車が、何故 現在ではSUBARUとポルシェしか作らなくなってしまったんでしょうか?
これに関しては前回のブログでも書いていますが、水平対向エンジンは エンジン寸法(幅)が大きくなってしまうからだと思います。
前ブログで書いた、燃費に有利なロングストロークを採用し辛いという理由も確かにあります。
しかし、ロングストローク化よりも先に問題となったのは動弁形式でした。
昔のエンジンは OHVだったので、ヘッド周りが嵩張らない水平対向エンジンは、意外とコンパクトだったんです。(下の写真はスバル1000に搭載された EA52 エンジン)
逆に言うと、水平対向のOHC化は結構ハードルが高かったんです。
SUBARUの水平対向エンジンが OHCになったのは、3代目レオーネになってからでした。
ちなみに、3代目レオーネの登場は1984年7月、SUBARUがようやくOHVからOHCへと移行した時期、他メーカーは既に DOHC 4バルブエンジンを登場させていました。
(AE86の登場は、3代目レオーネ登場の1年前の1983年5月)
SUBARUがOHC化した1984年も遅い気がしますが、アルファロメオに至っては 1989年までOHVのままだったのです。
まあ、それでもさすがはアルファロメオって感じで、単なるOHC化ではなく、DOHC 16Vを出してきましたけどね。
ボディの大型化と共にエンジン搭載スペースも大きくなった為、OHC(/DOHC)化も可能になりましたが、スペースの問題が解決しても、まだ直列エンジンよりも不利な点がありました。
それが、コストです。
ヘッドが2つある水平対向エンジンは、一般的な直列エンジンと比べれば ヘッド周りのパーツが2つ分必要になります。(V型エンジンも同様ですが、4気筒でV型を採用する車は、今はありません)
さらには、昨今では DOHC 4バルブは当たり前で、可変バルブタイミング機構も付く為、どうしてもコスト高となってしまいます。
そもそも、水平対向エンジンの採用理由には、駆動輪であるリアにコンポーネンツを纏める為であったり、FF車でネックになっていた等速ジョイントの解決策としてシンメトリカルな駆動系(=縦置き)にする為だったりしたのですが、技術的に横置きFFでも問題無くなった現在では、もはや水平対向エンジンに拘る理由も無くなりました。
結局、ブランドのアイデンティティとして水平対向エンジンがあった SUBARUとポルシェ以外、水平対向エンジンを作る理由が無かったのです。
前回のブログで紹介した動画内で「水平対向エンジンはスバルとポルシェしか作っていないマイナーなエンジンであり、他社の直列エンジンに比べると、開発で不利になる」なんて事を言っていましたが、そんな事は無いのです。
そもそも、採用例が少ないと言っても水平対向エンジンはレシプロエンジンです。
マツダ以外に開発を行っていない(≒開発出来ない)ロータリーエンジンとは違いますからね。
単純に、他社が水平対向エンジンを作らないのは、「コスト高である事」、「エンジンレイアウトが特殊である事(≒専用の車作りが必要)」でしかないのです。
最近、BMW以外は作るのをやめていた直列6気筒エンジンが復活の兆しがありますが、水平対向エンジンに関しては色々と制約が多いので、SUBARUとポルシェ以外のメーカーが水平対向エンジンを再び作る事は無いでしょうね。
まー、エンジン搭載車自体が無くなるって言われているくらいですから、新たに水平対向エンジンを開発する会社なんてある訳無いか。(汗)